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広島地方裁判所 昭和51年(行ウ)4号 判決

原告 株式会社東和製作所

被告 呉税務署長

訴訟代理人 河村幸登 堂前正紀 ほか一名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  請求原因(二)の事実及び原告が、所轄税務署長に対し、物品税法三五条二項に規定する製造開始申告、同法二九条二項に規定する課税標準及び税額の申告をすることなく、昭和四六年五月から昭和四八年一二月までの間、中古ぱちんこ機に加工(それが製造にあたるといえるか否かについては後記のとおり争いがある)をして別表(二)記載の台数のぱちんこ機を移出したことは当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の中古ぱちんこ機に対する加工行為が、物品税法三条二項の課税物品の「製造」に該当するか否かを検討する。

(一)  〈証拠省略〉によれば、原告は、前記期間中ぱちんこ店株式会社ローズ(以下ローズという)から、専属的に、二、三か月に一度の割合で、同店が営業の用に供しているぱちんこ機のうち、その約半数にあたる二〇〇台ないし二三〇台程度のぱちんこ機を無料で引き取り、これを解体して後記加工を施したうえ、再び組立ててローズに移出していたこと、右ぱちんこ機の構造は大きく分けて、外枠、内枠、表側台板(表ベニヤともいう)、裏側台板(裏ベニヤともいう)の四つの基本的部分に分かれており、外枠は単なる木の枠であるが、内枠には百血、下血、前飾り、ハンドル等の部品が取り付けられ、表側台板には、表面にセル(セルロイド板)が張られ、その上に表釘、風車、役物、チヤツカー等の表部品が取り付けられ、裏側台板にはタンク、タンクレール、鈴筒等の裏部品が取り付けられていること、ローズが営業の用に供しているぱちんこ機は、大同式等の通常のぱちこん機においては一枚の内側台板の裏表に各装着されている部品を、裏側台板と表側台板の二枚にそれぞれ装着させて組合せ一体としたものであり、ぱちんこ機としての機能面では裏部品を装置した裏側台板が一応一番重要な部分といえるが、商品価値ないし使用価値の面では、表部品を装着した表側台板が最重要部分を構成していること、原告が中古ぱちんこ機に対して施す加工の大要は、ローズから同店が営業の用に供していた中古ぱちんこ機を引き取ると、まず前記四つの部分に解体し、外枠は洗浄するのみであるが内枠は、装着部品をすべて取りはずして、使用可能なものは洗浄ないし研磨して各部品ごとに整理保管し、表側台板については、役物、チヤツカー等のうち再使用可能なものを一部取りはずして部品の種類別に保管していた後は、装着された古い表釘、レール等の表部品は廃棄し一旦外枠、内枠、裏側台板をそれぞれ別々に積上げ整理していたこと、次に組立の順序としては、表側台板については常に別途業者から購入した新品を用いることとし、これを表セルを貼り、表セルにゲージ機で釘穴等の印をつけ、表釘、レール、風車等は別途購入した新しい部品を用い、その他の表部品は保管しておいた中古部品を用いるのを原則として不足分は新品をもつて補充し、次に内枠については古い内枠に洗浄ないし研磨して保管中の部品を適宜とり出して装置し、裏側台板については、裏部品のうち不良なものを新品と取り替えたうえ、再び四つの部分を組み合わせて一個のぱちんこ機を完成させていたが、表側台板、内枠に装置される中古部品は必らずしも元同一の表側台板、内枠に装着させていたものではなく、またすべて中古品を用いていた内枠、外枠、裏側台板も必らずしも元通り組合せたものではなく、適宜装着ないし組合わされていたこと、なお原告は、ローズから同店が営業の用に供しているものとは型式の異なる大同式等の中古ぱちんこ機の提供をうけ、これに加工を施すこともあつたが、この場合右ぱちんこ機が一枚の内側台板の裏表に部品を取り付けたものであつたため、表部品の取り替えのほかに、裏側台板に右大同式等のぱちんこ機からとつた裏部品を取り付ける作業も行なつていたこと、ローズから引き取る中古ぱちんこ機は、いわゆる二落ち(再下取品)以下の機械であるため、せいぜい三〇〇円ないし五〇〇円程度で取引されるにすぎず、ローズが他から買入れて原告に提供していた大同式等の中古ばちんこ機も二、〇〇〇円以下程度のものであつたが、右の如き加工を施した結果五、〇〇〇円ないし七、〇〇〇円の価格でローズに移出され、同店において、新台と遜色のないぱちんこ機として営業の用に供されていたこと、以上の事実が認められ、証人山下真揮人の証言中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  ところで、物品税法三条二項にいう課税物品の「製造」とは、一般に材料または原料に物理的、化学的な変化を与え、若しくは操作を加えて新たな課税物品を造り出す行為をいうものと解されるが、本件の如く中古ぱちんこ機に加工を施すような場合にあつては、素材となつた中古ぱちんこ機が、加工行為によりその一体性を失うに至つたか否かという物理的要因とともに、それにより別個の新たな価値物を創造したといえる程度に著しい価値の増加があつたか否かという経済的要因をも総合勘案し、社会通念に従つて判断するのが相当である。

そこでこれを原告の本件加工行為についてみるに、前記認定事実によれば、右加工行為は、加工の対象物である中古ぱちんこ機を、まず四つの基本的部分(ローズの営業の用に供されている以外の型式のものでは三つの部分)に解体し、さらに表部品及び内枠に装着された部品はいずれも取りはずして各個の部品に還元するなど、いわばぱちんこ機としての一体性を一旦喪失せしめたうえ、表側台板は常に新しいものを用い、その他の部品については再使用可能な中古部品を取捨選択して寄せ集め、これに新しい部品を補充し、これらを組み合わせてぱちんこ機を作り出すものであり、とりわけ、ぱちんこ機の遊戯具としての商品価値ないし使用価値の面で最重要部分といえる表側台板部分を、ほぼ全面的に新品と取り替える点を考えれば、加工前後のぱちんこ機は、もはや物理的同一性を有しないことは明らかである。そして加工行為により、中古ぱちんこ機はその価値を著しく増大させ、新品のぱちんこ機と遜色がないものとしてローズの営業の用に供されていることも併せ勘案すれば、原告の中古ぱちんこ機に対する加工行為は、社会通念上既存の価値の修復の限度を越えて、別個の新たな価値物を創造するものというべきであり、したがつて、物品税法上の「製造」に該当すると認めるのが相当である。本件加工行為がぱちんこ機の「修復」に該当するとの原告の主張に沿う〈証拠省略〉記載の見解は採用し難い。

なお〈証拠省略〉には、外枠、内枠、裏側台板にそれぞれ同一番号が付されていることが認められるところ、〈証拠省略〉はこの点に関して、原告は、解体前の中古ぱちんこ機の外枠等の各部分には〈証拠省略〉と同様に同一の番号を付し、これにより再び組み立てるにあたつては必ず解体前と同じ部分同士を組み合わせていた旨及びこのようにしなければ、各部分を正確に組み合わせることができない旨証言し、〈証拠省略〉にも同旨の記載があるが、これらの証言ないし記載は、〈証拠省略〉に対比し、にわかに措信し難い。

三  しかして、原告のぱちんこ機に対する加工行為が製造にあたるとした場合、それに対する物品税及び無申告加算税の算定根拠が別表(二)記載のとおりであることは当事者間に争いがないから、主文掲記の各年月分の物品税額及び無申告加算税額は本件処分のとおりに算定されることとなる。

四  以上の説示によると、被告が原告に対してなした本件処分はいずれも適法であるということができるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明 谷岡武教 岡田雄一)

別表〈省略〉

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